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旭川地方裁判所 昭和48年(つ)6号 決定

請求人 畠山馨

主文

本件請求をいずれも棄却する。

理由

第一本件被疑事実の要旨

被請求人らは、いずれも監獄官吏として旭川刑務所に勤務し、法令により拘禁せられた者を看守する職務に従事していたものであり、請求人は既決囚として同刑務所に在監していたものであるが、

一  被請求人近藤義雄、同長得三、同地代所康一、同石神芳弘、同川端正弘、同蒔山載、同渡辺昭男、同奈須野勇一および同秋山勝太郎の九名は、共謀のうえ、昭和四八年四月九日午後一時ころ、旭川市東鷹栖町三線二〇号旭川刑務所内において、同刑務所の職員を告訴するための告訴状の認書を行なつていた請求人に対し、「懲役囚は定役に服する義務がある。」「作業時間中は認書は認められていないから止めろ。」「職員の指示に従わないなら筆記用具はひきあげる。」などと言つて、請求人から擅に筆記用具、告訴状原稿などを取り上げて請求人の認書を妨害し、もつて、その職権を濫用して請求人の行うべき権利を妨害し、

二  被請求人近藤義雄、同長得三、同地代所康一、同伊東博昭、同久保田吉助、同高田喜美雄、同川島昭、同石神芳弘、同川端正弘、同高橋天塩および同蒔山載の一一名は、共謀のうえ、何らそのような懲罰に付すべき理由がないのに、同年五月一四日、前記旭川刑務所で請求人に対する懲罰会議を開き、翌一五日、怠役、抗命、暴行を理由として同人に対する軽屏禁二〇日の懲罰を決定し、同月三〇日からこれを執行し、もつて、被拘禁者に対し陵虐の行為をし

たものである。

第二当裁判所の判断

一  本件関係記録によれば、請求人は右各被疑事実につき各関係被請求人を告訴したところ、昭和四八年一一月一六日旭川地方検察庁検察官から右事件を不起訴処分に付した旨の通知を受け、同月二四日本件付審判請求書を右検察官に差し出したことが認められる。

二  そこで、本件各被疑事実について付審判請求の理由の有無について検討する。

(一)  被疑事実一について

検察官作成の不起訴裁定書によれば、検察官は本件被疑事実一についてはその罪名を告訴人(請求人)の主張どおり強要罪(刑法二二三条)としてこれを不起訴処分に付しており、この事実の罪名を右のとおり強要罪とする限り、それは付審判の請求をすることのできる刑事訴訟法二六二条一項掲記の罪には該らないから、右事実についての本請求は理由がないこと明らかである。

しかしながら、請求人が告訴状で主張する事実関係をみると、右事実の主張を刑事訴訟法二六二条一項掲記の罪に該当する公務員職権濫用罪(刑法一九三条)の事実の主張と解する余地がないわけでなく、また検察官の右事実についての不起訴処分の理由とするところは右被疑事実を公務員職権濫用の事実とした場合においても何ら異なるものではないと推認されるので、以下に右被疑事実の罪名を公務員職権濫用罪としたうえで、付審判請求の理由の有無について判断を加えることとする。

本件関係記録によれば、被請求人らは当時いずれも旭川刑務所職員であつたこと、昭和四八年四月九日午前一一時過ぎ頃、被請求人地代所康一、同奈須野勇一が舎房内を巡回していた際、請求人が認書を許可されている時間帯外の作業時間中であるにもかかわらず作業をせずに告訴状の認書をしているのを現認し、右両名において請求人に対し認書をやめて作業を行なうよう指示したが、請求人がその指示に従おうとしないため、主任看守部長たる被請求人渡辺昭男の命により、被請求人秋山勝太郎が請求人の房内より告訴状原稿、筆記道具などを引きあげたことが認められる。しかし、これらの行為は、既決懲役囚である請求人を定役に服せしめると共に請求人に許可どおりの認書時間を順守させ、刑務所内での紀律を保持すべき職務上の義務がある被請求人らにおいて、右職務を遂行するためにいわば当然の措置をとつたものに他ならず、このことを目して被請求人らがその職権を濫用したものと言うことができないことは明らかである。(なお、請求人は請求人に対し無期懲役刑を言渡した確定判決に違法があるとして裁判官を告訴し、右事件が不起訴処分になるや付審判の請求をし、さらに右請求を棄却する決定に対して抗告の申立をしている者であるから定役に服する義務はない旨主張するが、仮に請求人の主張するような事実があるとしても、裁判官を被請求者とする付審判請求ないしは右請求を棄却する決定に対する抗告の申立に確定判決の執行力を停止する効力が認められていない以上請求人に定役に服する義務があることは言うまでもないところであり、請求人の右の主張は独自の特異な見解にもとづくものであつて到底採用の限りでない。)。

(二)  被疑事実二について

本件関係記録によれば請求人は昭和四八年五月一四日に開かれた懲罰会議の結果翌一五日軽屏禁二〇日の懲罰に処せられ、同月三〇日からその執行を受けたことが認められる。しかし、右懲罰は、前記(一)で認定したとおり作業時間中に指定の作業に就業せず怠役したこと、これを発見されて注意指導を受けるや反抗的な言動をとつて抗命したこと、さらに筆記用具を引きあげられたことに憤慨して居房の中にあつた作業材料を廊下に投げ捨てる暴行を行なつたことを理由としてなされたものであつて、その違反事実の認定および懲罰の種類の選択等の面で何ら不法不当と目すべき点は認められないから、被請求人らが請求人に右のような懲罰を科したことをもつて陵虐の行為をなしたものとすることはできないものと言うべきである。

三  以上の理由により、結局本件付審判の請求はいずれも失当であるから、刑事訴訟法二六六条一号により主文のとおり決定する。

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